本書の内容
2011年3月11日にはじまった東日本大震災は、マグニチュード9.0という巨大地震をきっかけにして、高さ15メートルにおよぶ巨大津波を招き、さらにはLevel7という深刻な原子力災害を引き起こした。前代未聞のtriple disasterは、約30万人におよぶ第二次大戦後最大の国内避難民を発生させた。命からがら逃れた人々は、住居を失い、肉親を失い、生業を奪われ、人間関係が分断され、ふるさとの風土を破壊され、生きてきた歴史を断絶させられた。そのpsycho-social suffering and traumaは計り知れない。
早稲田大学災害復興医療人類学研究所 辻内琢也教授をはじめとするプロジェクトチームでは、そのような重層的な苦悩に向き合い、それぞれの専門性を基礎にした支援活動に乗り出し、広義の意味のHuman Scienceを目指す同士としての協働がはじまった。
本書は、大規模災害が生じた時にアカデミズムに求められている社会貢献の記録である。各論文の頭には、それぞれの研究が目指した、これらの各レベルの健康を含めた目標を3つ提示して整理している。
Part 1には、災害直後からそれぞれの研究者らが行ってきたフィールドワークや支援活動についての報告論文が集まっている。Part 2は、研究プロジェクトの成果論文を集めた。フィールドワークや支援活動を通じて、アカデミズムに求められた要請に対するわれわれ研究者の応答である。辻内論文、岩垣論文、増田論文、多賀論文、石川論文の5つの論文は、同じ調査データに基づく研究結果である。
21世紀は災害の世紀と呼ばれる。今後も、大地震や大津波といった自然災害だけでなく、数々の人為災害の発生が予測される。原子力発電に関しても、世界には稼働中の発電所が400基を超えて存在しており、今後中国などの新興国における増加を考えると、原子力災害は「チェルノブイリ」と「福島」が最後だとは言い切れないだろう。忘れてはならないことは、大災害が極めて重大な人権侵害を引き起こすことである。本プロジェクトの成果が、“Holistic Health” の獲得を通じて、究極的には“Human Recovery”の達成に貢献できることを願っている。(イントロダクションより一部抜粋)
This book serves as a record of the social contributions required of academic activities during a large-scale disaster. The objective of our work was to provide holistic health care that spanned multiple levels, from individual to environmental, covering everything from physical, mental, family, community, and public health, to social wellbeing and healthy environments. At the beginning of each paper, the authors organize and present the three goals of their research, including how they connect to the above-mentioned levels of health care.(Introduction)