21歳の「私」が学生ローン返済のために働いた2年間を描く自伝的グラフィックノベル 待望の邦訳!『DUCKS(ダックス)仕事って何? お金? やりがい?』 10月24日発売
著者 ケイト・ビートンから 日本の読者の皆様へ
これは、ごく普通の一般的な家庭に育った私が、若いころにカナダ北部のオイルサンドで働いた体験を綴った物語です。本書を皆様に楽しんでいただければ嬉しく思います。
物語を書いていた時、他に現場で働く人たちの体験を伝える漫画はないか探していました。その中で特に印象的だった作品が『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』(竜田一人著)です。現場の人たちの体験記は多くありませんでしたが、日本には多様で豊かな漫画文化があることに鑑みれば、このような素晴らしい作品が生まれたことに驚きはありませんでした。
本書も同様に、一般にはあまり知られていない産業の実態を伝え、読者の心に響くことを願っています。マスコミや企業が伝えるメッセージ、大企業や政府が作ってしまう世論を超えて、そこで働いた体験をありのままに描いています。本書はカナダを舞台にしていますが、企業と働く人たちとの力関係のありようは世界共通と言えるでしょう。
インターブックスから本書が発行されること、そして漫画の力を真に評価してくださる業界や読者たちの一部になれることに感謝しています。どうか本書があなたの心にも響きますように。
感謝を込めて
ケイト・ビートン
オバマ元米大統領がおすすめ本リストで初めて選んだグラフィックノベル!
ニューヨーク・タイムズ2022年注目の100冊!
コミックス界のアカデミー賞といわれる「アイズナー賞」で
2023年最優秀グラフィック・メモワール賞、最優秀ライター/アーティスト賞を受賞!
ストーリー
北米のマンガ業界から21世紀で最も成功した女性マンガ家のひとりといわれるケイト・ビートンによる自伝的グラフィックノベル。
学生ローン返済のためにオイルサンドに出稼ぎに行った21歳の彼女を待っていたのは、男女比が50対1の職場… 彼女が目の当たりにした、理想の仕事を得ることの困難さと男性的な職場での善と悪、環境破壊などの問題を、淡々とかつユーモアを交えて描くことで読む者の心に訴えかける。
『DUCKS』という書名は、汚染された貯水池に飛来して死んだ大量のカモにちなんで名づけられた。まるで、生活のために厳しい環境で傷つきながらも働く主人公と仲間たちを重ね合わせているかのように。
推薦コメント
金原瑞人 翻訳家
カナダの豊かな自然を破壊し、労働者を搾取して収益を上げる企業に飛びこんでいった女性の2年間の体験を綴ったグラフィックノベル。そこはさらに男性50人に対して女性1人という状況で……と書くと、現代の社会問題と女性問題を凝縮した作品のように聞こえるかもしれない。たしかにその通りで、主人公は上司から「ここはネズミの檻だ」といわれるような状況のなか、「みんな、家にいたらやらないことを、ここならするよね」と実感させられる。しかしここで描かれていくのは、肉体的、精神的に疲弊していく自分と折り合いをつけながら、ある意味、したたかに生き抜いていく彼女の姿だ。彼女を支えているのはたくましさではなく、しなやかさだ。ユーモアや自分なりの考えと感性を武器としてではなく、防具としてじつにうまく使っているところに説得力がある。この作品は、男女を問わず、これからを生きる人たちすべてにとってのバイブルになりそうだ。
原正人 バンド・デシネ翻訳家、サウザンコミックス編集主幹
主人公のケイティは、学生ローンを借りて大学を卒業したはいいが、卒業後に大学で学んだことを活かすことができるわけでもなく、まずはローンを返済するために、大好きな故郷から遠く離れ、金払いはいいが、非人間的な、オイルサンドでの仕事に従事しなければならない。前途ある若者がどうしてこんなにも無意味な足止めを食らわなければならないのか。すっかり中年となった今、未来ある若者につきつけられた不条理に怒りを覚えざるをえないが、振り返れば僕も、大学院生時代、奨学金を借り(ケイティとは異なり、長い時間をかけて返済した)、それでも学費や生活費は足りず、深夜のアルバイトをしながら通学したものだったし、社会に出てからも、就職難の時代のこととて、一時、派遣のアルバイトで、勝手のわからない倉庫や工場を転々としたものだった。おそらくそんな人は、ここ数十年の日本には山ほどいただろうし、今だってたくさんいることだろう。そんな人たちにとって、本書は心の底から共感できる本であるはずだ。鉱滓池にはまり抜け出せなくなってしまうカモたちさながら、ケイティもまた、オイルサンドのぬかるみに足を取られることになるが、はたして彼女がカモたちと同じ運命を辿るのかどうか、ぜひ本書を最後まで読んで見届けていただきたい。
著者 ケイト・ビートン
(Kate Beaton)
カナダのマンガ家。大学で歴史と文化人類学の学位を取得後、学生ローン返済のため2年間、オイルサンドのプラントで働く。その間に『Hark! A Vagrant』のタイトルでウェブコミックの創作を始め、世界中の読者を魅了。作品集『Hark! A Vagrant』や『Step Aside, Pops』は、『ニューヨーク・タイムズ」のグラフィックノベルのベストセラーリスト、『タイム』『ワシントン・ポスト』などでその年のベストリストに名前を連ねた。アイズナー賞、イグナッツ賞、ハーベイ賞、ダグ・ライト賞を受賞。
訳者 椎名ゆかり
海外マンガ翻訳者、東京藝術大学非常勤講師、デジタルハリウッド特任教授。文化庁参事官付芸術文化調査官(メディア芸術担当)。アメリカ・オハイオ州ボーリンググリーン州立大学大学院ポピュラーカルチャー専攻修士課程修了。海外マンガや論文の翻訳及び海外におけるマンガ状況について執筆を行う。主な訳書に『ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』、『マンガ学 マンガによるマンガのためのマンガ理論』、『ザ・ボーイズ』、『モンストレス』など多数。
書誌情報
書名:『DUCKS(ダックス)仕事って何? お金? やりがい?』 | |
著者:ケイト・ビートン | 仕様:A5判、並製、448頁 |
訳者:椎名ゆかり | ISBN:978-4-924914-91-9 |
定価:3,080円(本体2,800円+税) | 発行:株式会社インターブックス |